Report レポート

レポート美術ART LEAP 2020

ART LEAP 2020 全体講評・選評について

当センターの美術事業では、2018年より、30代から40代の芸術家を対象とした公募プログラム「ART LEAP」を開催しております。
第3回となる今年度は、審査員にキュレーターの服部浩之氏を迎え、2021年2月〜3月に当館で個展を開催する作家の選考を行ってまいりました。今年度は47組の応募があり、7組の作家が一次審査を通過しました。(一次審査通過者のプロフィールはこちら

7月19日(日)に開催いたしました出展作家最終選考会「展覧会プラン公開プレゼンテーション」および、その後の非公開による最終審査を経て、蓮沼昌宏(はすぬま まさひろ)を「ART LEAP 2020」の出展作家に選出いたしました。本ページでは、審査員による一次審査を通過した全7組の作家の講評と、全体講評を掲載いたします。

全体講評の様子

ART LEAP 2020 審査員
服部浩之氏(キュレーター/秋田公立美術大学大学院准教授、アートラボあいちディレクター)

【最終審査全体講評】

実は一人で審査をするのは今回が初めてでした。こういう審査会はだいたい何人か審査員がいるのですが、今回は1人で審査を任されるということで、正直なところものすごくプレッシャーを感じていました。今日もみなさんの話を聞いている間ずっと緊張をしていました。でも、1つ1つのプランが非常に刺激的で、オンラインではなく直接話をお聞きして対話ができたことは、とても貴重な機会をいただけたと思います。
一次選考では、純粋に話を聞いてみたい方やプランの実現を見てみたい方を選ばせていただきました。今日の最終選考でも、アウトプットの仕方や作る過程のアプローチまで、本当に様々でした。
また、この数ヶ月の間に新型コロナウイルスの影響により、社会の状況が圧倒的に変わってしまっているなかで、みなさんそれぞれがそういった環境を踏まえて、どう応答しようとしているのかという声を聞けたことは、すごくいい機会だなと思いました。
数時間に渡ってみなさんから展覧会プランのプレゼンテーションをお聞きして、この神戸アートビレッジセンター(以下、KAVC)で展示をぜひ拝見したいと思った方を選ばせていただきました。蓮沼さんのプランをぜひ実現していただきたいなと思います。なぜそう思ったのかを順番にお話させていただきます。

蓮沼昌宏
KAVCは僕も何度か来たことがありますが、やはりアートセンターは発表する場であると同時に、制作する場でもあるということをすごく感じました。スタッフの方々も様々な能力を持ってらっしゃいます。「作家がKAVCスタッフと協働で展覧会を作る」という指針をスタッフの方からお聞きしており、その可能性を最大限拡張できる作家の展覧会を実現してほしいと思いました。この場所、この環境に渡り合い、一緒にできる形が良いのではないかと思っていました。もちろん、みなさんのプランはどれもここだから出来るという部分はあると思います。
蓮沼さんのプランを選んだ理由は、「特別的にできないこと」というできなさに対するまなざしが、現在の社会状況への応答として真摯であると思ったことと、数ヶ月後の状況が全く読めないなかでいかに固定化しないでいるかを淡々と考えてらっしゃったことです。展示プラン自体にはまだ穴が色々あると思うのですが、日々の変化にも機微に反応しつつ根底にある「できなさ」という主題を探求していただくことは、多様性などが叫ばれる現代において非常に重要だと感じています。
また、家族で移住しながら制作を続けているという生活の作り方にも興味を持ちました。移動のあり方や人と人とのコミュニケーションのあり方が大きく変容するなかで、家族と制作活動の良好な関係を見出すために家族で一定期間神戸に住み展覧会をつくることは、まさに「新しい生活習慣」に挑戦するものだとも感じました。僕自身のアーティスト・イン・レジデンスへの関心にも通じるものでした。
現在提示いただいた展示プランでは、若干無理がある点もありますので、課題も多く抱えてらっしゃると思います。KAVCのスタッフはじめさまざまな人の助けがないと実現できなさそうですが、「できなさ」という不可視のものをどう形にしていけるのか、ぜひ展覧会を拝見したいです。

山下裕美子
プレゼンをしていただいたときにもお話しましたが、参考資料としてお持ちいただいた作品の一部を手にしたときの感覚にすごく驚きました。予想をうらぎる軽やかさ。その衝撃、衝撃とは違いますね、なんかじんわりくる感じがとても印象に残りました。美術作品は目で鑑賞するだけじゃないんだなと改めて感じさせられました。触覚など、視覚とは異なる知覚に訴えかけてくる。繊細さと強さという相反するものが同居する作品は、様々な発表形態に展開可能だと感じました。ただ、KAVCは雑多で複合的な場所で、ギャラリーもあればシアターやスタジオもある環境のため、ある種の静けさが重要と思われる山下さんの作品がどうしたらKAVCという状況にマッチするのか、あまりしっくりきませんでした。もっとシンプルな環境であれば、非常に響く展覧会が実現できるだろうなとも思いました。いずれにしても、作品に触れたときのじんわりと同時に鮮烈な感覚が忘れられないです。

渡邉朋也
渡邉さんはプレゼンが非常に明晰で面白くて、完成形も想像しやすく作品としてはぜひ出会いたいと思いました。それこそ現代における作者性への批評的視点や、作品の定義とは何かという重要な問題にも触れていて、クリティカルな提案だと思います。6秒に1枚作家が描くパフォーマンスも本当に見たいと思いました。ただ1つ思ったのは、この作品はKAVCのヘルプがなくても渡邉さんの独力で実現できそうだなという点でした。もちろんプランとしてはKAVCの空間に合わせて提示をしてくれていたんですけど、別の機会でもうまく形になりそうだと思いました。簡単にできるものではないということは重々承知ですが、いま・ここで実現する必然性がもう一歩あると良いなと思いました。作品の実現を楽しみにしています。

山本篤
山本さんはプレゼン自体が一つのパフォーマンスとして非常に流暢で魅力的でした。また、山本さん個人の神戸でのかつての経験と今をつなぐという観点も理解できました。しかし、ギャラリーとシアターの展開の落差というか、シアターに入ると観客は突然見られる対象になり、実は監視されているというストーリーが、意図は理解出来ても、結局出発点となる山本さん個人の体験はなんだったのだろうかという迷路に入ってしまう感じがしました。神戸との接点からスタートしているのに、それが山本さんの過去の体験でしかないというところはちょっともったいない気がして、もっと個人の体験を違う形で表出しても良いのではないかと思いました。ギャラリーとシアターの関係というか連続性を、もう一歩深めて構成していただけるとよかっただろうなと思っていました。

Auto-community Archivists
Auto-community Archivistsのみなさんの活動や在り方は実はすごく共感をしました。WEBもめちゃくちゃすごい厚みがあるし、この活動自体は今後もしっかりと継続されていくだろうし、安定感もあって魅力的で、重要な活動だなと思いました。ただ、お話を聞いていて、展覧会である理由や必然性みたいなものがいまいち理解できませんでした。メンバーのみなさんは多彩な人々が集まっていますので、展覧会というかたちにする力も十二分にお持ちですし、クオリティの高いものが出来ていくんだろうなというふうには思います。また、家族のあり方が多様化し、その関係性は様々に再考されているので、主題としては非常に重要だと思っています。ただ、シアターの使い方など、すごく綺麗にまとめていただいていた分、なんとなく想像ができてしまい、もう少しだけ未知の展開が見てみたいなと思いました。

ARCHIVES PAY
実は最後に蓮沼さんとARCHIVES PAYのプランで迷っていました。現場化するという考え方自体はすごく面白いと思いましたし、それこそここでしか出来ないことが実現しそうだなと思いました。これまでの実践を踏まえたうえで過去の要素も組み込んで今回の展覧会をつくるということでしたが、これまでの展開の延長上という印象が残り、新たな展開はどこなんだろうということが気になりました。小屋を作ることなど、構成や造形もわりとこれまでの成果を活用している部分が大きいように感じました。とはいえ、インターネットも含めていくつかの現場があるという発想も非常に魅力的だと思うので、その現場がどう動くのか、今後も注目してきたいと思います。未知の期待感という観点で、今回は蓮沼さんのプランの方がより見てみたいと感じました。

毒山凡太朗
毒山さんのプランはレイヤーも非常に複雑ですし、ご自身のモチベーションも高く、東日本大震災の話から東アジアにも繋がっていく想像力と実践の関係もすごく面白いと思いました。公演やパフォーマンスと展示の関係、身体性や経験を共有(あるいは、擬似的に体験)するためにVRを用いるなど、作品構造も非常によく練られていると思います。ギャラリーだけでなくシアターやホールもあるという施設の環境が作品を実現するのに適した環境であるというのは理解はできたのですが、神戸という土地とかKAVCとの文脈的なつながりが僕の中でうまくつくれませんでした。現代美術の方法論や表現形式の構成はものすごく巧みですし、「催眠」という対象も掘り下げるべき価値があると思います。ただ、主に手法とか形式において参照先が透ける感じがして、他者の実践が想像されてしまい、もう一歩先まで突き抜けていただきたいと思いました。作品の強度や複雑さは非常に魅力的ですし、ぜひ実現していただけるといいなと思いました。

 

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